こんにちは!
ちょっかんライフです。
日常のなかで、直観レーダーにピピピッと引っかかったアレコレを取り上げるページーー。
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MLB 労使協定2026問題
メジャーリーグベースボール(MLB)では、現行の労使協定(CBA::Collective Bargaining Agreement)は2026年に終了します。これは、2022年3月にMLB機構と選手会が合意した協定期間が2026年までとなっているため。
このCBA終了に伴い、新たな労使交渉が行われることになるわけなのですが・・・。
それまで、協約期限が切れた後のリーグの将来を決定づけるあらゆるテーマの中で、常に議論の的となってきたのが、サラリーキャップ導入をはじめとする野球の経済構造について。
ンっ?サラリーキャップ?…経済構造??…
今回は、下手をすると2027年春のメジャーリーグ開催も危ぶまれる、これら諸問題について掘り下げていきたいと思います。
まずは米野球界を知る上で欠かせない雇用の仕組みなど、押さえておきたい各種用語の理解から。
MLBにおけるサラリーキャップとは?
MLBにおけるサラリーキャップとは各チームが選手に支払う年俸総額に上限を設ける制度のこと。
これにより、チーム間の戦力均衡を図り、年俸の高騰を抑制する効果が期待できるというもの。MLBではサラリーキャップ制度は「ソフトキャップ」と呼ばれ、いくつかの例外を認めています。
サラリーキャップの概要
- 目的:チーム間の戦力均衡、選手の年俸高騰の抑制
- 仕組み:各チームが選手に支払う年俸総額に上限を設定
- 特徴:MLBでは「ソフトキャップ」を採用して、いくつかの*例外規定が定められている
- 贅沢税:サラリーキャップを超過した場合、超過額に応じペナルティとして*贅沢税が課される
- 下限額:サラリーキャップは下限額も設定、チームには一定割合以上の年俸支払義務がある
1. MLBのサラリーキャップの特徴(ソフトキャップ)
例外規定:
・FA再契約時、一定期間同じチームでプレーした選手はサラリーキャップ上限超え契約が可能
・高年俸選手との入れ替えトレードでは、サラリーキャップの超過が認められる場合がある
・若手選手育成のため、特定条件を満たした選手はサラリーキャップの対象外となる場合がある
贅沢税:
サラリーキャップを超えた場合、超過額に応じて贅沢税が課される。徴収した贅沢税はサラリーキャップを遵守するチームに分配される
2. MLBのサラリーキャップ制度のメリット
戦力均衡:
資金力のあるチームが、高額選手を大量獲得することを防ぎ、リーグ全体の競争を促進する
選手の年俸高騰抑制:
選手の年俸が際限なく高騰することを抑制し、球団経営の安定化に貢献する
選手の流出防止:
資金力のあるチームへの選手流出を抑制し、選手のキャリアプランの多様性を促す
3. MLBのサラリーキャップ制度のデメリット
例外規定の複雑さ:
ソフトキャップの例外規定が複雑で、球団経営を難しくする要因になる
高額選手の獲得制限:
資金力のあるチームでも、高額選手を大量獲得することが困難になる
球団の戦略的自由度の制限:
資金力のある球団でも、特定の選手を獲得することが難しくなり戦略的チーム編成が制限される
まとめると・・・
MLBのサラリーキャップとは、チーム間の戦力均衡と選手年俸の高騰抑制を目的とした制度。ソフトキャップという例外規定を設けることで選手獲得や育成など、ある程度の自由が利く面もある。とはいえ、例外規定の複雑さや高額選手の獲得制限といったデメリットも存在する、ということです。
2027シーズン開幕への懸念
AP通信は2025シーズン開幕前の2月、MLBコミッショナーのロブ・マンフレッド氏のサラリーキャップに関する談話を紹介。
同氏が、このオフシーズンにドジャースが投じた巨額支出を受け、今なお野球に年俸上限がないことを懸念するファンからメールが届いたと語った、と報じました。
2024年のワールドシリーズは、米野球界で最も多額の支出をしたチームが優勝。
ロサンゼルス・ドジャースは3億5300万ドル(約529億5000万円/1ドル150円)の贅沢税を人件費に計上し、1億300万ドル(約154億5000万円/同レート)の税金を支払わなければなりませんでした。(ちなみに、贅沢税の人件費が最も低いアスレチックスは8400万ドル弱(約126億円弱)
ただマンフレッド氏は、「ドジャースの組織運営はルールに則ったものであり成功に値する」とし、一方で「他チームの中には球団間の競争力に懸念をおぼえる人がいることも認識しており、届いたメールにもそれが反映されていたが、それをドジャースのせいにする気はない」と付け加えています。
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ドジャースがワールドシリーズ制覇
ほかに、オリオールズの新オーナーであるデビッド・ルーベンスタイン氏は、1月の世界経済フォーラムに出席。
「他スポーツリーグと同様に野球もサラリーキャップ制度を導入すればいいのにと思っています」と、金融情報サービスYahoo Finance(ヤフー・ファイナンス)に見解を述べました。
米プロスポーツリーグの労働争議
新たなパートナーシップを巡る交渉は2026年春より開始される予定ですが、アメリカのプロスポーツリーグではこれまで様々な労働争議が発生。
2度にわたって起きたNHL(ホッケー)とNBA(バスケ)のロックアウト、特にNHLはシーズン短縮や全休でリーグ運営とファンに深刻な影響を与え、他にもNFL(アメフト)では3度のストライキを経験してきた歴史があります。
MLBもまた、まだ先のようでいて、それでも確実に迫りくる現行の労使協定失効の ”その後” が、再び世間の注目を集め始めているのです。

なるほど…で、ロックアウトとストライキの違いは?
MLBにおけるロックアウトとストライキ
MLBにおけるロックアウトとストライキは、共に労働争議の一形態ですが主体が異なります。
ロックアウトはオーナー側が主体、ストライキは選手側が主体となる事態で、労働条件や年俸、FA制度などの緒問題について交渉がまとまらない場合に発生します。
ロックアウトとストライキの違い
ロックアウト:
オーナー側が選手を試合に出場させないことで、労働条件の改善などを要求すること。選手会との交渉を有利に進めるために行われる
ストライキ:
選手会が労働を拒否し試合をボイコットすることで、オーナー側に労働条件の改善などを要求する行為
過去の主な事例
Embed from Getty Images 1994年
近代野球史上初めてワールドシリーズ中止で閑散とするリグレー・フィールド
1994年~1995年にかけてのストライキ
MLB史上最長にして最大規模のストライキとなり、1994年のワールドシリーズが中止になるなどシーズンにも大きな影響が出ました。
第一次世界大戦、第二次大戦中も移動制限や応召を受けながら一度も中止されずに開催されてきたメジャーにおけるストライキ。選手たちはオーナー側が提案するサラリーキャップ制度の導入に反発し、7か月半(232日)におよぶストライキで同案を阻止。ついにはワールドシリーズ中止にまで至る。翌シーズン開幕も遅れ、大規模なファン離れを引き起こし、深刻な状況に陥ったが、野茂英雄の登場によるトルネード旋風などが救世主役となった。
Embed from Getty Images 2022年
1月MLBロックアウト
2021年末~2022年初頭にかけてのロックアウト
スプリングトレーニングや開幕の遅れにつながりましたが、試合の中止には至りませんでした。
2021年12月、それまで5年ごとの同意により運営されてきた2016年団体交渉協定(CBA)の失効を受け、オーナー側がロックアウトの発動を決議、99日間にわたってレギュラーシーズンが中断。選手らはその間、球団施設が使えず、春季トレーニングは中止、サラリー支払いもストップ、翌年以降の年俸調停も進まず…。結果的に2022年の開幕が1週間ズレ込む形でなんとか収束した。

労働争議が行われた場合のファンからの批判は大きく、損失を取り戻すのにも時間がかかりそう。前回のロックアウトがつい数年前の出来事とは信じられない…。
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4月中旬フェンウェイ・パークで行われた開幕戦
このような経緯をたどりながらも2025年のメジャーリーグは何事もなく開幕を迎え、前半戦を折り返すタイミングで始まったオールスターウィーク。
夏の祭典で賑わう最中、MLB機構と選手会の間では、2026 CBA終了後問題についての議論が活発化していたようで・・・。
MLB機構と選手会それぞれの思惑
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米メディア『ESPN』の野球担当ホルヘ・カスティージョ記者の寄稿記事から、今現在MLBが抱える諸問題を把握していきましょう。
選手会の専務理事トニー・クラーク氏(元メジャーリーガー53歳)とコミッショナーのロブ・マンフレッド氏(弁護士、経営者67歳)は、今年のMLBオールスターゲームを前にして、それぞれ全米野球記者協会BBWAAの会員らに向けて講演。野球を取り巻くさまざまな話題に触れました。
そこで明らかにされた選手会の見解はというと、
MLB機構側は3年をかけた各チームとの会談で、上限設定(サラリーキャップ)を強く求めており、このまま両者間に膠着状態が続けば、1994年のストライキ以来となるリーグ戦中止につながる可能性があると見ている
というもの。
次いでニューヨーク・メッツのピート・アロンソもオールスター記者会見で選手たちの思いを代弁。
「誰もそのことについては話していないけど、彼らがそれを理由に我々を締め出し、我々が出場機会を失うことになるだろうことは皆分かってる。“No one’s talking about it, but we all know that they’re going to lock us out for it, and then we’re going to miss time,”」
MLB機構の思い
対してマンフレッド氏は、選手たちにサラリーキャップを要求しているという主張を否定。
現在のメディア事業の問題点の一つは、多くのファンが ”競争力バランスに難を感じている” こと、二つ目に、MLBが経済システムを根本から見直す理由として、近年の ”地元メディア放映権契約で失われた収入” を挙げました。
「 私の唯一の目標は、選手に特定のシステム導入を説得することではなく、誰もがオープンマインドで交渉テーブルに着きファン主導の問題に取り組もうとすることが、より良い団体交渉プロセスと結果につながるということを納得させることです。” my only goal there is to not convince them of one system or another, but to convince them that everybody going to the table with an open mind to try to address a problem that’s fan-driven leads to a better collective bargaining process and a better outcome.”」
前出したコミッショナーへのメールのように、幾つかのチームが税金の罰金を差し置いても積極的な支出を続けることに疑問を呈し、オーナーへの構造改革を求める声というのは確かにある様子。
現時点でのドジャースですが、今季の人件費と贅沢税に約5億6300万ドル(約816億3500万円/1ドル145円)を支出すると予測されています。メッツが4億900万ドル(約593億500万円/同レート)、ヤンキースは3億5900万ドル(約520億5500万円)、フィリーズ3億3200万ドル(約481億4000万円)と続きます。
それとは反対に、10球団は1億5000万ドル未満(約217億5000万円未満)の支出が見込まれており、ホワイトソックスが9090万ドル(約131億8050万円)、マーリンズの8470万ドル(約122億8150万円)が最下位となっています。
MLB選手会の思い
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ストライキに抗議するプラカードを掲げるファン
選手会のクラーク氏は、選手年俸に上限を設けることへの弊害と制度そのものへの不信感について、以下のように主張。
「歴史的に見て、サラリーキャップは契約保証を制限してきた。[それは]しばしば我々が決定的な非競争システムとしてプレーヤー間で共有していることです。それは優秀さを評価するものではない。組織的な観点から見ればそれは弱体化に通じる。“A salary cap, historically, has limited contract guarantees associated,” ” [that] is often what we share with players as the definitive noncompetitive system. It doesn’t reward excellence. It undermines it from an organizational standpoint. だからこそこれは、競争バランスの問題ではないのです。公平か不公平かという問題でもない。それは制度化された共謀であって、サラリーキャップ制度とはそういうものです。That’s why this is not about competitive balance. It’s not about a fair versus not. This is institutionalized collusion. That’s what a salary cap is.」
米野球界を揺るがすチーム間の経済的不均衡と選手への報酬問題…この先2年間のうちになんとか最悪のシナリオを回避して、2027年シーズンを晴れやかに迎えることができるよう願うばかりです。