こんにちは!
ちょっかんライフです。
日常のなかで、直観レーダーにピピピッと引っかかったアレコレを取り上げるページへようこそ。
スポーツの歴史には、まるで最初から緻密な脚本でも用意されていたかのような ”運命の日” が訪れることがあります。
現地時間8月18日(日本時間19日)、サンディエゴ・パドレスの至宝フェルナンド・タティスJr.にとって、ニューヨーク・メッツの本拠地「シティ・フィールド」での一戦は、まさにそんな特別な夜となりました。
少年時代の夢の続き――史上最高タティスJr. 本物の神プレー
壁の向こう側にあった夢:ホームラン強奪のルーツ

スタジアムのすぐ側を走り抜ける地下鉄7番線の轟音、そしてクイーンズ特有の夏の湿り気――。この場所はタティスJr.にとって単なる敵地の遠征先ではありません。
今から約20年前、メジャーリーガーだった父親の背中を追いかけ、幼い彼が夏休みを過ごした「原点」の街だったのです。
当時、メッツ所属の父タティス・シニアが暮らしていたアパートの敷地には、10歳のタティスJr.の背丈より少しだけ高い「壁」がありました。彼は、その壁を球場のフェンスに見立て、一人でボールを壁にぶつけては、自ら壁を跳び越えて空中でキャッチする「ホームラン強奪ごっこ」に没頭していたといいます。
「うまく捕れないときは、壁の向こう側までボールを取りに行って、また壁を乗り越えて戻ってくる。そんなことの繰り返しだった。素晴らしい思い出だよ。最後までやり遂げたからね」
今夜のような一瞬のために――。あの頃、ひとりの少年が壁の向こう側に描いた無邪気な思いは、十数年の時を経て、最高峰のメジャーリーグという舞台で「本物の奇跡」を起こすことになります。
子供の頃の夢が叶ったのは間違いない。ああ、だからこそ僕たちはこのゲームをやっているんだ!
息を呑む一瞬の静寂、そして誰をも魅了する「華」

物語のクライマックスは、パドレスが1点リードで迎えた2回裏に訪れました。
二死満塁。本塁打が出れば一気に逆転される絶体絶命のピンチです。マウンドには、移籍してきたばかりで新天地での足場を固めようともがくロビー・レイ投手。
メッツの主力打者フランシスコ・リンドーアが放った一打は右翼席へと舞い上がり、誰もがグランドスラム(満塁ホームラン)を確信します。
そこへ、ライトを守っていたタティスJr.が迷いなく疾走すると、一瞬の間にフェンスとの距離感を確認しつつ、330フィート(約100m)の標識近くで力強く空に向かって跳躍したのです。
帽子が吹き飛ぶほどの勢いそのままに、フェンスの向こう側、観客席の方まで伸ばされた左腕。ボールが空中で消えたかのようで、シティ・フィールド全体が打球の行方を見失い、静寂が訪れます。
と、次の瞬間、グラブから素手へとボールを移し、クールな ”ドヤ顔” で掲げてみせるタティスJr.。スタジアムは敵味方の垣根を越えた狂喜の渦に包まれました。

マウンド上のレイ投手は、たった今信じられないものを見たと言わんばかりにグラブを頭に乗せ、呆然と口を開けています。
パドレスのクレイグ・スタメン監督は、誰もが息を呑んだこのビッグプレーをこう絶賛しました。
「彼はただこなすだけじゃない。華麗にキメて見せるんだ」
単にチームの正念場を救うだけでなく、見る者すべてを虜にしてしまう天性の華やかさ。それこそが、パドレスファンのみならず、すべてのベースボールファンを魅了するタティスJr.最大の魅力であり、この夜の「強奪劇」を伝説へと昇華させた瞬間でした。
ひとりで7点分!試合を完璧に支配した「エルニーニョ」

タティスJr.の愛称は、「エルニーニョ(El Niño)」。
少年時代から自分より年上で体の大きな選手たちに混じって野球をプレーしていた彼が、常に「年下の小さな子供」だったことに由来しています。
本人はプロやメジャーのスターとなった現在でも、当時からの呼び名を「野球は楽しむもの」という原点を思い出させてくれる大切なニックネームとして胸に刻んできました。

そんな彼のスペクタル・ショーは守備だけでは終わりません。
この夜、タティスJr.は試合開始直後に大型の先頭打者アーチを描いていました。『Statcast』が計測したムーンショットの飛距離は、452フィート(約138メートル)。今季これほどの特大弾を4本以上打っているのは、メジャー全体で彼一人だけ。
さらに5回には、逆方向のスタンドへ叩き込む見事な2ランホームランを放ったのです。
「NBA(米プロバスケ)で使われる『個人の得失点貢献(プラスマイナス)』の考え方で言えば、奪った4点と生み出した3点を合わせた『+7点分』。たった一人でチームにそれだけのリードをもたらしたというのは、まさに驚異だね」とスタメン監督も感嘆の声を漏らします。
守りで4点を防ぎ、打撃で3点を生み出す。
圧倒的な能力と、この上ない存在感から放たれる「華」によって、フェルナンド・タティスJr.が試合そのものを完全に支配してみせたのでした。
少年時代の夢の続き

ホームランを打つことと、それを奪うこと。では、彼はどちらが好みなのでしょうか?
試合後のヒーローインタビューでそう問われたタティスJr.。
「難しい質問だね…。だけど、今日のホームランキャッチ(ホームラン強奪プレー)のほうが、2本のホームランを打つよりもアガッた(楽しかった)かな」
――かつてクイーンズの片隅で、壁を相手に一人ボールを追いかけていた10歳の少年。彼が大人になり、かつて夢見た最高の舞台で魅せた至高のエンターテインメント。
野球の神様が書いたようなドラマチックで最高にカッコいい一夜は、これからもメジャーリーグの伝説として語り継がれていくことでしょう!
