こんにちは!
ちょっかんライフです。
今回も一人暮らしの直観レーダーにピピピッと引っかかったアレコレを取り上げてまいります。
pianistmagazine
~2024年Pianist Magazine10月-11月号表紙では陽だまりのような笑顔~
クラシックファンならずとも、2019年公開映画『蜜蜂と遠雷』のピアノ演奏(鈴鹿央士演じる風間塵演奏パート)からピアニスト・藤田真央さんを知りファンになった方もいるのではないでしょうか。
映画の中を流れる音の響きには、思わず聴く者の耳をとらえてしまうインパクトがありました。
今現在、世界中の名だたる劇場や音楽祭、オーケストラからも招待され演奏活動をつづける藤田真央さんですが、演奏家としての歩みを始めたころ、急遽 ”代役” を依頼された経験をお持ちです。
それら不意に訪れた予期せぬオファーにどのように応え、どうやって結果を出したのでしょうか。
今回、本記事ではピアニスト・藤田真央さんの ”代役” に関するエピソードをまとめてみました。
どうぞ最後までお付き合いください。
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~2019年第16回チャイコフスキー国際コンクールピアノ部門にて銀メダル~~
PROFILE
1998年11月28日東京都生まれ。東京音楽大学特別特待奨学生としてピアノ演奏家コース・エクセレンス進学。2017年、弱冠18歳で第27回クララ・ハスキル国際ピアノ・コンクール優勝、併せて青年批評家賞、聴衆賞、現代曲賞受賞し審査員や聴衆から熱狂的に支持される。19年、チャイコフスキー国際コンクール第2位。他、国内外で受賞多数。
マリインスキー劇場管弦楽団 ”チャイコフスキー・フェスティバル”
前出のPROFILE(プロフィール)にもあるとおり、藤田真央(mao fujita)さんは2019年6月チャイコフスキー国際コンクールで銀メダルを獲得。
その後に行われたガラ・コンサート(記念演奏会)では、マエストロとして知られる指揮者、ワレリー(ヴァレリー)・ゲルギエフ(valery gergiev)氏との共演の機会も得ました。
40代前半でマリインスキー劇場を世界的な地位へと押し上げ、その後はロンドン交響楽団の首席指揮者、そして2019年当時はミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団で指揮をとっていたゲルギエフ氏。
チャイコフスキーコンクールでは、そのマエストロをして「maoの存在は今コンクールにおける『サプライズ』だ!」と言わしめるほど藤田真央さんの才能は高く評価されたのでした。
受賞を機に、ゲルギエフ氏指揮によるマリインスキー歌劇場管弦楽団との共演を果たし、ロンドンを皮切りに各国の大都市でもデビュー。
そして年の瀬も間近となったある日、同氏&同楽団の来日公演を前に、藤田真央さんのもとへ思いがけないオファーが舞い込んだのです。
初演奏曲で圧倒
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~マエストロ・ゲルギエフとチャイコフスキーの2番コンチェルトを演奏~
2019年12月、東京文化会館大ホールで行われたゲルギエフ氏率いる『チャイコフスキー・フェスティヴァル』の最終公演。
当初の予定で協奏曲ソロを弾く予定だったセルゲイ・ババヤン(sergei babayan)氏(当時58歳)が「私的都合」によりキャンセル。
代わってステージに姿を現わしたのが、その年のチャイコフスキーコンクール入賞者の藤田真央さん(当時21歳になったばかり)!
弾くのは初めて取り掛かる曲、チャイコフスキーの『ピアノ協奏曲第2番 ト短調 作品44』。
急遽の起用、短い準備期間だったはずなのに、奏でる音はリリカルにしてヴィヴィッド、稀にみる美しい演奏で聴衆を圧倒。
彼が弾き終わると楽団員からも大きな拍手がわき起り、指揮者のゲルギエフ氏からは
「maoと演奏していると幸せなんだ!」
と感嘆の声が上がるほど素晴らしいソロを披露したのでした。
果敢に挑戦するマインド
それにしても権威あるコンテストの上位入賞者とはいえ、若き演奏家にとって急な代演依頼はビッグチャンスと同時に大変なプレッシャーになりそうなもの…。
最終公演でピアノを弾く予定だったセルゲイ・ババヤン氏は、これまで一流オーケストラのソリストとしてコアなピアノ好きの間でこよなく愛されてきた名演奏家。
そんな実力者の代役として、ゲルギエフ氏は藤田真央さんに白羽の矢を立てたのです。
しかも演奏曲は当時まだ藤田さんのレパートリーにもなかった難易度MAXとされる難曲。
にもかかわらず、果敢に挑戦し限られた時間の中でみごとに仕上げ、聴く者すべてを魅了してしまったのですから、そのマインドセット含め驚くべき偉才と言うほかありませんね。
リガ・ユルマラ音楽祭 ”フィナーレ”
2021年9月5日。
ラトビアのリガ・ユルマラ音楽祭最終日。
ソロとヴァイオリンデュオリサイタル、2つの公演を無事に終えて次の音楽祭開催地・ジョージア行きの出発準備をしていた藤田真央さんにまたしても代演の依頼が・・・。
同祭でフィナーレを飾るはずだったポルトガル出身の女性ピアニスト、マリア・ジョアン・ピレシュ(ピリス)(maria joão pires)さん(当時77歳)が、その日の午後に街を歩いていて転倒。
大怪我を負い入院したため「代役を引き受けてくれないか」と主催者側から電話が入ったのです。
公演開始までわずか30分、準備に1時間の猶予さえない切迫した状況下でのオファーでした。
急遽ファイナルステージへ
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~2021年ラトビアのリーガ・ジュルマラフェスティバルでコンサート~
取るものもとりあえず会場へと駆けつけた藤田真央さん。
そこで目にしたのが、ピレシュ(ピリス)さんの演奏を聴きたくて集まったファンで溢れかえる客席でした。
ほどなくして主催者が壇上に立ち、満杯の聴衆に向けて事の経緯を説明。
・・・ということでステージは日本のピアニストMao Fujitaが代役として演奏しますが、どうしてもpiresでなくては納得のいかない人は会場をあとにして構いません。
スピーチが終わってもひとりとして席を立つ者はなく、誰もが、おそらく初めて耳にするであろう若きピアニストの演奏に聴き入ることにしたようでした。
やがてMao Fujitaは、公演キャンセルの穴を埋めるなどといったレベルではなく、まさにファイナルステージを象徴する感動的なパフォーマンスを展開。
満員の観客の喝采と歓声を一身に浴びながら、音楽祭のラストを締めくくったのです。
その経験を藤田真央さんはのちのインタビューで、「本当に感謝するとともに胸が熱くなる思いでした」と謙虚に述べていたのが何とも印象的です。
カーネギー・ホール ”デビュー”
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~2023年1月23日カーネギーデビューまであと2日となった日の記念ショット~
ほかに藤田真央さんの代役エピソードとして外せないのが、期せずして「カーネギーホール」デビューにつながったというあまりにスペシャルなオファー。
2022年秋、”現代最高のピアニストの一人”と呼ばれたマウリツィオ・ポリーニ(maurizio pollini)氏(当時80歳)が健康上の理由からカーネギーでの公演をキャンセル。
まもなく各メディアは、翌年1月末に代演となった藤田真央さんのカーネギーホールデビューについてのプレスリリースを発表。
ここでステージ実現にあたって何が驚きって、カーネギーホール側が主催する公演で主催者側から出演オファーがかかったということにビックリ。
演奏する側がお金を積んでホールを予約したわけでも、自らの売り込みによるものでもないのです。
つまりは世界最高峰を誇る音楽の殿堂が、「巨匠の代わりを務めるにふさわしい演奏家は誰?」というアングルから藤田真央さんにフォーカス。
そのイベント(催し)をカーネギーホールプレゼンツと謳いプロモートした事実がなんたって凄い。
運命的に巡ってきたこの大いなるチャンスを前に、彼はどんなステージで魅せてくれたのでしょうか。
熱狂の鮮烈デビュー
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~世界中の憧れカーネギーデビューは大成功!~
2023年1月25日、カーネギーホール公演当日。
2800席を有する大ホール(スターン・オーディトリウム)は最上階まで埋め尽くされる盛況ぶり。
【カーネギーホール】
カーネギーホール3つの会場
大ホールのスターン・オーディトリウム(客席数2800)
中ホールのザンケル・ホール(客席数600)
小ホールのウェイル・リサイタルホール(客席数270)
ニューヨークのクラシックファンからは ”チャイコフスキーコンクールからのブレークスルーで目下ヨーロッパを中心に話題を集める若手ピアニスト” に熱い視線が注がれます。
客席には有名music festivalプロデューサー、メジャー音楽事務所やレコード会社関係者の姿も。
そして幕の上がったステージでは最初のモーツァルトからいきなり「maoワールド」全開に。
続くリストのバラード2番、最終楽曲シューマンのピアノ・ソナタまで、ピアノにホール、そしてピアニストのトリニティ(trinity)によって生み出される至高の音楽が会場全体に響き渡ります。
最後は、曲が終わったと同時に大歓声が上がり、熱狂的なスタンディングオベーションで幕を閉じるセンセーショナルなデビューを飾ったのです。
カーネギーに毎年呼ばれるのはかなり非現実的ではあるけれど、デビューでこれだけ盛況を呈したのなら、またいつか声が掛かったりして…
クラシックを愛する音楽ファンに、そんな見果てぬ夢を抱かせるリサイタルでした。
最後に・・・
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~2024年カーネギーホール2度目のリサイタルも大盛況~
現在、ベルリンを拠点に世界中を飛び回り演奏活動を続けているピアニスト・藤田真央さん。
2024年11月にはニューヨークのカーネギーホールでリサイタルを開催。
しかも今度は2023年のカーネギー・デビュー以来2度目となる、代役ではないソロリサイタル出演。
音楽ファンが夢みた願いは、時を置かずして現実となり、瞬く間に叶えられてしまいました。
これまでの代演者としての経験を藤田真央さん自らが「大ピアニストたちの相次ぐキャンセルで代役の機会に恵まれたのは運が良かった」と言い切ってしまう潔さ。
いずれのケースも代役を好機ととらえ、望まれたオファーを前向きに受け入れてきたことが、少なからず今の活躍につながっているのかもしれませんね。
これからも応援していきたい素晴らしい音楽家のお一人です。
最後までお読みくださりありがとうございました。